うつの増加の原因とは一体何でしょうか? それは日本だけに特徴的に多い心の病でしょうか?あるいは経済発展した国に特徴的な心の病でしょうか?
また、精神医学は発展し、うつの解明も昔よりは進み治療薬も進歩していると聞きますが、それならば何故、うつは精神医学の進歩に比例して減少していかないのでしょうか?
また、他の人は現代人が宗教心あるいは信仰心を失ったことが、うつなどの心・精神の病気を引き起こしている原因のひとつだと言います。
そしてまた別の人は、精神医学が用いる向精神薬、抗うつ剤に原因があると言います。これらの薬の副作用こそ、本当の原因だと言うのです。そもそも精神医学は本当に心・精神の病気の治療に有効なのか?
今回はこのテーマを統計と研究結果とニュース記事を参考に見ていきましょう。まず「うつ病は日本だけに特徴的に多い病で海外には少ないのでしょうか?」 以下日本経済新聞からの引用です。
日本経済新聞」 より引用抜粋
「うつ病患者、世界に3億5千万人 WHO推計」
世界保健機関(WHO)は9日、世界で少なくとも3億5千万人が精神疾患であるうつ病の患者とみられるとの統計を発表した。毎年100万人近くの自殺者のうち、うつ病患者の占める割合は半数を超えるとみられている。
日本の厚生労働省によると、1996年には国内で43万3千人だったうつ病など気分障害の患者数は2008年に104万1千人に増加。WHOはスレスの多い日本など先進国だけでなく、発展途上国でも精神疾患の患者が目立つとしている。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)引用元⇒http://www.nikkei.com/article/DGXNZO47078010Q2A011C1CR8000/
うつの世界統計(173ヵ国)
では次は世界統計表をみてみましょう。これを見るとよくわかります。うつ病は経済発展した国に特徴的な心の病というわけではないですね。
そしてもうひとつわかるのが、発展途上国に比べて環境の整っている欧米先進国が意外に多かったりするという点ですね。おかしいですね、何故そうなるのでしょうか?劣悪な環境ほど増えそうですが単純にそうではないということ。
そもそも心・精神の病気は身体障碍のように誰もが見てわかるようなものではありません。専門的に定義・解釈されて初めて病名というラベルが貼られます。
ゆえに「精神医療が精神の病気の認定者を積極的に増やしているから患者の数値が増えている」というのも可能性として考えられます。
「休みたいから診断書をください」–現役精神科医「うつ病休職」の告発 より引用抜粋
(前略)
うつ病の診断をめぐる別の問題も絡んでいる。「うつ病」と「抑うつ反応」が混同されることによって、うつ病がストレスによって起こる病気の代表のように誤解されているというのだ。そのことについては後述するが、先にクローズアップさせておくべきは、うつ病が2010年代になって、1980年代の約5倍に増えたという事実である。
その第一の理由は、DSMという診断基準(一九八〇年に現在のDSM-5の雛形であるDSM-IIIが発表された)の導入です。その結果、一九九〇年代には、一九八〇年代の二倍に増加しました。
さらにもう一つ、うつ病の激増をもたらした要因は、SSRIと呼ばれる新型の抗うつ薬の発売です。SSRIは従来の抗うつ薬に比べて副作用が少なく、使いやすい薬です。それゆえ、うつ病の診断を厳密にしなくても抑うつ状態一般に使うことができます。
これが発売された一九九九年を境に、うつ病はさらに急激に増加したのです。(90ページより)
(中略)
長年精神医療に携わってきた私から見ると抑うつ体験反応にすぎないものが、現代の基準ではほとんどが「うつ病」ということにされてしまっています。「うつ病が軽症化した」という言い方もよくなされますが、これも同じ理由によります。見せかけの軽症化であり、うつ病そのものは決して軽症化していません。(92ページより)
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)
宗教・信仰・都市生活と うつの関係
統計を見る限り、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教などが国の宗教になっている国でもうつの発症率には違いがあるということと、
人口密度が低く自然の多いニュージーランドのような国でもメンタルヘルス障害が多いことから、単に都市生活者に多いとか、無神論だからうつやメンタルヘルス障害が増えるとか、なんらかの宗教を信仰しているから少ない、というわけではなさそうです。
世界保健機関(WHO)が2017年に発表したデータによれば、世界で最もうつの発症率が高い国はウクライナで、人口の9.2%がうつ病と診断されています。
ウクライナではキリスト教(正教会)が国教とされていますが、その他にもロシアとの紛争や経済危機などがうつ病の原因となっている可能性があります。
一方で、最もうつの発症率が低い国はニジェールで、人口の0.1%しかうつ病と診断されていません。ニジェールではイスラム教が国教とされていますが、その他にも気候や生活習慣などがうつ病の予防に役立っている可能性があります。
また、ヒンドゥー教や仏教が国の宗教になっている国でも、うつの発症率は様々です。たとえば、ヒンドゥー教が国教とされているネパールでは人口の4.4%がうつ病と診断されていますが、仏教が国教とされているタイでは人口の6.1%がうつ病と診断されています。
これらの国では宗教だけではなく、貧困や災害や社会的不平等などがうつ病の要因となっている可能性があります。ネパール・インド・バングラディッシュなどの宗教が盛んな国の統計では、うつは貧困などの生活ストレスとの因果関係がメインであり、
したがって、うつの発症率に関して「宗教・信仰の有る無し」という要素だけで「高い、低い」と一般化することはできません。
宗教は人々の精神的な健康に影響を与える要素の一つですが、それだけではなく、多くの複雑な要素が関係しています。宗教は人々に希望や安心感を与えることもあれば、ストレスや罪悪感を与えることもあります。そのため、宗教とうつ病の関係を調べる際には、個々の事例や文脈を考慮する必要があります。
それでは「信仰」はうつ、メンタルヘルスには全く効果がないのでしょうか? 逆に、信仰や宗教はメンタルヘルに有効でしょうか? 以下、「MSDマニュアル」 高齢者における宗教とスピリチュアリティ(霊性)より 引用・抜粋です。
宗教は心身の健康増進と相関し,信仰のある人々は神の介入がそれらの恩恵を促進するとの考えを示すことがある。しかし,組織化された宗教への参加が健康に寄与するかどうか,または心身がより健康な人が宗教的グループに惹きつけられるかどうかについて,専門家は判断できていない。宗教がたとえ助けになるとしても,その理由(信仰心自体によるものか,またはその他の要因によるものか)は不明である。その他の要因に当たるものが,多数指摘されている(例,心理的な便益,健康に良い習慣の奨励,宗教コミュニティからの社会的支援)。心理的な便益
宗教は,以下のような心理的な便益をもたらすことがある:人生や病気に対する前向きで希望に満ちた姿勢により,健康面の転帰が改善し,死亡率が低下すると予測される
人生の意義および目的意識が,健康にかかわる行動,ならびに社会的関係および家族関係に影響を及ぼす
疾患および障害に対する対処能力が高まる
多くの高齢者は,宗教が,身体的な健康上の問題および生活上のストレス(例,経済力の低下,配偶者またはパートナーの喪失)への対処を可能にする最も重要な因子であると報告している。
ある研究では,健康上の問題および困難な社会的状況に対処する際に,90%を超える高齢患者が少なくとも中等度に宗教に頼っていた。例えば,将来に対して希望に満ちた前向きな姿勢でいることは,身体的な問題がある人々が回復しようという意欲を持ち続けるのに役立つ。
宗教的な対処法を利用する人では,そうでない人々に比べて,うつ病および不安が発生しにくい;このような逆相関は身体障害が重大である人ほど,特に強い。
有害な影響
宗教は高齢者にとって常に有益とは限らない。信仰心は過度の罪悪感,柔軟性のなさ,および不安を助長することがある。強迫症,双極性障害,統合失調症,または精神病を有する患者では,宗教への執着および宗教妄想が発生することがある。
一部の宗教グループは,命を救う可能性がある治療(例,輸血,生命を脅かす感染症の治療,インスリン療法)を含む精神医療および身体医療に反対し,代わりに宗教儀式(例,祈り,読経,灯明を上げる)を行うことがある。さらに厳格な一部の宗教グループは,高齢者をグループに参加していない家族や幅広い社会的コミュニティから孤立させ引き離すこともある。
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