「知・情・意」「守・破・離」と小脳の役割

 

 

今回は前回の「知能・能力・創造性の脳科学的考察」の続きです。記事が長いので二回に分けました。前回の記事知能・能力・創造性の脳科学的考察

 

 

「守・破・離」の守

情動的学習:扁桃体・海馬を中心とした大脳辺縁系が関与する古典的条件付け(レスポンデント条件付け)。これにより「情動的記憶」や基本的な行動パターン(躾など)が形成される。

行動の定着:小脳-基底核ループによる手続き記憶が、反復練習を通じて「技・体」の自動化を促進。報酬(ドーパミン系)と罰(扁桃体-前頭前皮質相互作用)を用いたオペラント条件付けが、外発的動機付けによる行動強化を担う。

報酬と罰による「発的動機付け」によるオペラント条件付けは、より高次の「守」で、この二つの「守」によって「心・技・体」の「技・体」の基本的な条件付けが行われるわけですね。

 

「守・破・離」の破

内発的動機付け:前頭前皮質(特に背外側部)の目標指向行動と腹側線条体の報酬予測が連動し、既存の「型」への創造的介入が発生。

身体リズムの統合:島皮質-前帯状皮質ネットワークが身体感覚(インタロセプション)をモニタリングし、無意識的なリズム調整が「型」の変容を導く。この段階では、従来の強化スケジュール(例:FI/VIスケジュール)からの逸脱が観察される。

 

「守・破・離」の離

新たな型の創出:デフォルトモードネットワーク(DMN)と実行制御ネットワーク(ECN)の動的相互作用により、創造性と制御のバランスが最適化。

心身統合:前頭葉-運動皮質-小脳の協調が高度化し、意識的制御を必要としない「無為の動作」が可能となる(神経効率化仮説)。この状態は、オペラント条件付けにおける「刺激統制」の超越と解釈可能。

最終段階の『離』では、内発的に昇華された基本技能が新たな形式として自由かつ柔軟に表現され、心(認知)・技(運動)・体(感覚・行動)の調和が達成される状態を意味します。

神経科学的には、技能が自動化され流暢なパフォーマンス、いわゆる「フロー状態」になることとも類似性が指摘され、脳と身体が一体となって機能する「心身一如」的な状態が示唆されます。

しかし、これは哲学的・武道的な概念を借用した比喩的な表現であり、実際の神経回路の統合プロセスは複雑で多次元的なものである点を考慮する必要があります。

 

ではここで「アインシュタイン以上のIQを持つ自閉症の少年のピーチ」の動画を紹介しますね。少年は言います「大切なのは学びじゃなくIQじゃなく、学ことを、考えることや創造することに変えることだ」と。

 

もうひとつ、「自閉症と能力の関係」の最新の研究結果の記事を紹介です。

 

英エディンバラ大学と豪クイーンズランド大学の研究チームは、スコットランドに住む健常者、約1万人に対し、一般的な認識能のテストとDNA解析を行った。

その結果、自閉症と関連づけられる遺伝子を持っているが、実際に発症したことのない人は、認識能力テストのスコアが平均して少し高いことがわかった。

引用元⇒ 自閉症と高い知能の間に遺伝的な関連性が認められる(英・豪研究)

 

次は、「小脳」と「創造性」の意外な関係について書かれた研究結果の記事を紹介しますね。シンプルに「創造性の発現」は「えるな、感じろ!」という、「燃えよドラゴン」でのブルース・リーの名言と重なるような内容です。

そして「考えるな、感じろ!」は、「型にはまった条件付け反応」ではなく、子供心のベースである「無意識のゆらぎ・リズム感」を活性化させるんですね。

 

「創造性と小脳 」 より引用抜粋

2015年5月28日 サイエンスデイリーより 出典:スタンフォード大学医療センター

従来、体で覚える脳、あるいは動作を指示する脳と考えられていた小脳が、予想に反して創造性に結びついているのが分かった。この研究は、スタンフォード大学医学部とハッソー・プラトナー・デザイン研究所の共同研究で発表された。

「誰でも創造的に考えたいが、どうやって創造的に考えられるのか。無理に創造的に成ろうとしても、逆に創造性は萎む。問題は、この手の実験をする時には、被験者はMRI装置の下に寝て脳スキャンをしなければならないことだ。

これは創造的考えが最も出難い環境である」とサッガーは続ける。「創造性発揮には人は自由に解放されていないとならない。そうでないと、創造性ではなくて、不安とその行動を調べる実験になってしまう」と彼は言う。
(中略)
考えれば考えるほど創造は遠のく

小脳が活発化したのは驚きであった。猿の実験では、学習したり新しい動作を練習する時、小脳が活発化するのは既に分かっている。多分、専門家はこの現象の理解に苦しんでいたのだろうと、サッガーは言う。

最近の研究では、人間の小脳は、動作以外の他の脳にも強く連絡しているのが分かっている。 「解剖学的知見からも、小脳は単に動作の中枢以上のものがある」とサッガーは言う。

多分、小脳は前頭前野皮質と同じように、動作の絵を描く力があるのであろうと、サッガー等は推測する。小脳は、前頭前野皮質に代わって繰り返し描きながら、無意識的に絵を完成させる。その結果、前頭前野皮質は描く作業から解放されて、次の問題解決へと前進する。
(中略)
サッガーは「考えれば考えるほど創造性はしぼむ」と言い切る。– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 創造性と小脳

 

とはいえ、脳は複合的で全体的な相互運動をしている臓器であり、以下に紹介の外部リンク先の記事内容のような、極めて特殊なケース「小脳がない女性」でも普通に生活が出来ているんです。つまり脳は非常に適応性が高く役割を補完し合える能力を秘めている不思議な驚くべき臓器なのです。中国で生まれつき小脳がない24歳の女性が見つかる

小脳は細かい運動の調整やタイミング、誤差修正などに重要な役割を果たしていますが、先天的な小脳欠損(小脳無形成)の場合、発達期における神経可塑性(ニューロプラスティシティ)の働きにより、大脳皮質、脳幹、基底核など他の運動制御系が代替的な役割を担うように再編成されます。

小脳の役割は必ずしも単一領域に閉じたものではなく、他の脳領域も運動調整や感覚統合に寄与しているため、出生前から小脳が欠損していると、発達過程で他の領域がその不足分を補償する経路が構築されます。

欠損が後天的なダメージであれば機能障害が目立つ場合が多いのに対し、先天的なケースでは代償機構が十分に働くことで、生活上大きな不便なく機能できるのです。

このような症例は、脳の分散的かつ冗長なネットワークシステム、そして神経回路の再編成能力がいかに柔軟かつ力強いかを示す好例とも言えます。

もうひとつ、小脳に関連する記事を紹介。小脳の運動学習を定量的に評価するシステムを世界で初めて開発-東京医科歯科大

 

次に紹介の記事は、「創造性と統合失調症の陽性症状」の関係性を検証した研究の記事ですが、私は「病的退行」で発現するある種の妄想的な創造性と、治療的退行・創造的退行での創造性には質の違いがあると感じています。

 

脳科学研究戦略推進プログラム

京都大学 「創造性と統合失調症の陽性症状再考:拡散テンソル画像による構造的結合性解析」 より引用抜粋

<概要>
創造性と統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想)はいずれも、珍しいあるいは離れた概念の結びつきとも考えることもできる。統合失調症と創造性の関係は古くから研究されてきたが、結果は一致していない。また、適応的な創造性と奇異で病的な精神症状との違いは何であろうか?

統合失調症患者を対象に、語彙、デザイン、アイデアの創造性の課題を施行し、その結果と精神症状と白質統合性との関係を調べた。脳梁前方の白質統合性が低い患者ほど、語彙の創造性の高く、妄想が重症であった。

大脳半球間(前方)の結合性が低いことが、意味ネットワークの制御不能につながり、適応的ではない病的な妄想や陽性症状につながると示唆された。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 脳科学研究戦略推進プログラム

 

結晶性知能は大人向きで、流動性知能は子供向きともいえますが、大人になっても「子供心」がある人は、流動性知能があまり落ちません。なので死ぬまで探求を楽しみ、心の躍動感を失わずに学び創造し続けることが出来るんですね。

 

そして、心の奥に「条件付けられてない子供心」が生き生きと在る心は、そこから様々な無意識の情報がキャッチされ意識に上がってくるため、感性が非常に豊かになり、ひらめきや直感力も鈍らない状態です。これが先天的に強力に発揮されているのが天才であり、

後天性のタイプとしては、「条件付け」の限界を突破し創造的可能性へと向かうために、自ら無意識のゆらぎ・リズム感を活性化させ、内発的なモチベーションによって型を打ち破る「達人」タイプです。

 

そして「創造性」は、「条件付け」を外すことから生まれる無意識の解放とそのエネルギー・情報を自由に扱える流動性の知能の総合力によるもので、そこに「技術・知識・体験」などが合わさって総動員された結果が「クリエイティブ活動」というものなんですね。

 

子供の頃は誰でも生き生きとした無意識のゆらぎとリズムを持っています。そこには「予測できない多様な自由さの表現と活発さ」があり、それが創造性の源であり、内発的なモチベーションを生み出す源の力ですね。

その生き生きとした働きが失われずに「高次の精神機能」と結びついた人が、例えば過去の宗教的な偉人であったり、天才であったり、内発的な使命感をもって生きる高い志のある者達です。

 

外発的な条件付けは、ネガティブな条件付けを修正したり、基本的な「躾」、「型」としての技能・行動形成の習得には役立ちますが、創造性を育むものではないんです。

 

そして日本はこの「守」のレベルの平均値が非常に高い段階にある国なのですが、「破・離」に向かう方向性が抑圧化され硬直化している傾向にあるために、様々な分野で行き詰ってきている、と分析しているわけですね。

 

ではラストに、「ADHD」の生物学的な意味・可能性についての研究の記事を紹介し記事の終わりとします。

 

「世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)」 より引用抜粋

突飛で落ち着きがないが、瞬発的機動力で、好奇心の赴くままに行動する「新奇探索傾向」があるADHDだが、農耕が開始された新石器時代以前の狩猟採集社会では、むしろ有利な特性であった可能性が指摘されている。

米ニューヨークのワイル・コーネル医科大学の精神薬理学部長を務めるリチャード・フリードマン教授によると、アメリカでは約11%の人が4歳から17歳までのある時点でADHDと診断されているそうだ。

10人に1人以上という計算になる。教授は、「それほど多くの人がもつ症状なら、もはや障害や疾患とは呼べないのではないのでは?」と疑問を呈している。

フリードマン教授は、「退屈や決められたやり方を嫌い、新しいことや興味を引かれる方向に向かおうとするADHDの人は、あくまでも管理された定住型の現代社会にうまく適応できないだけで、狩猟や遊牧を行う原始的な社会では成功者だったのでは?」という仮説を立てた。
(中略)
ワシントン大学の人類学者ダン・T・A・アイゼンバーグの調査によれば、アリアール族の遊牧民の集団では、ADHDと関連づけられるDRD4-7Rと呼ばれるドーパミン受容体遺伝子を持つ男性のほうが、そうでない男性よりも栄養状態が良好であったのに対して、

同じアリアール族でも農耕民の集団では、DRD4-7Rを持つ男性のほうが栄養不良の状態にあったという。つまり、集中力は続かないが新しい刺激に対して行動的なADHDの人は、狩りには向いているが、時間をかけて作物を育てることには向いていないということであり、

現代社会に置き換えれば、自分に適した職業や場所さえ見つけられれば、ADHDの特性を強みに変えることも可能だということになる。– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 世が世なら・・・発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)

 

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