今回は、遺伝子と男女の原理をホルモンの関係性や遺伝的な性差、そして母性原理・男性原理という視点から考察しています。前回・次回の記事テーマの補足の意味もあります。
※ 母性原理=女性ではなく、男性原理=男性ではありません。男女で見ればこの原理は逆転していたり混合していたりそれぞれですが、その現れ方や、使い方には性差があると考えます。
記事後半では、母性的愛情(包む愛)と父性的愛情(鍛える愛)についても少し書いています。
男女の差異
母性的愛情(マターナル・アフェクション)と父性的愛情(パターナル・アフェクション)、この二つの質の違いは、父や母でなくても未婚の成人男女にも現れています。
そして母性のホルモン(オキシトシン)と父性のホルモン(バゾプレッシン)も父や母だけにあるのではなく、男性原理・女性原理を特徴づける要素としてこの二つのホルモンの働きとバランスが関係し、
またこの2つのホルモンは「社会性」にも関わると言われています。
生物学的にはバゾプレッシンは「メスと子孫を守るために戦うオスのホルモン」とも言えるもので、例えばメスと子孫が襲われ生命の危険があるような時、
オスが全力で敵と戦うためには、オキシトシンによる敵への愛は攻撃力低下の作用にしかならないために、バゾプレッシンによってオキシトシンをブロックするという作用が働く、ということですが、
現代社会では原始時代より遥かに少なくなったとはいえ、やはりオスはいざという時は命がけで戦う宿命を設定された生き物なんですね。
このあたりのより詳細な科学的考察に関しては、以前このブログで紹介した「場末P科病院の精神科医のblog」の記事を参考にどうぞ。
「場末P科病院の精神科医のblog」⇒ 母性のホルモンと父性のホルモン(オキシトシンとバゾプレッシン)
※ ただ、オキシトシンやバソプレシンは社会性とか愛情とか、あるいは脳だけに作用するようなものではなく、ホルモンというものは様々な働きをしています。そのあたりのより専門的なことを知りたい方は専門書として『脳とホルモンの行動学―行動神経内分泌学への招待』をおススメします。
東京大学大学院総合文化研究所科教授の石浦章一氏の著作「遺伝子が明かす脳と心のからくり」によれば、
「リスク感受性」の先天的な遺伝要素に関しては、女性は男性に比べて危険を嫌い、とくに「家族に対してのリスクを嫌う」ということがいろいろの結果からハッキリわかっている、ということで、
そしてこの本は、「安保法案」よりもずっと過去に出版された本なのですが、なかなか意味の深い以下の文を引用紹介します。
– 引用ここから – 「遺伝子が明かす脳と心のからくり」より
「民主党の人が自分の意見を通したいときには世の中の女性に向かってあなたの夫が戦争に行くとどうなります?」と質問すればいいのです。そうすると戦争は嫌だなということになります。これが誘導尋問の上手いやり方ですよね。
逆に「自民党の人が「今行かなきゃどうなる。世界中のバランスが崩れてしまうぞ」というと、男はそうかもしれないと思うかもしれません。
– 引用ここまで –
と書かれているのですが、安保法案に反対する大規模なデモにも多くの若い女性が参加したのは、「家族に対してのリスクを嫌う女性の本質」がまず先にあって、そこに女性雑誌などが主婦層に対し 「リスク強調的に安保法案を伝えた」結果、
「だれの子どもも、ころさせない。」「We say NO WAR!」の反応になったともいえるでしょう。この法案は将来的には若い世代の男性が一番現実的に関係性が強い法案にも関わらず、若い男性ほど賛成派が多いですよね。
女性はリスクを冒さず「ウチ」の範囲で保護しようとし、男性は「ウチ」に及ぶ「ソト」からの危険性を考え、いざという時は心を鬼にしてでも危険性が高くても「ソト」に出て戦って守ろうとする、そういう性質の差異も反映されているように感じます。
では再び記事テーマに戻りましょう。
先に紹介のブログ記事で「V1aR遺伝子は離婚(浮気)と関係している」とのことですが、
最近世間で良くニュースになる芸能人や一般人の「浮気」「不倫」とかいうのも、何度も繰り返すタイプは案外この遺伝子が絡んでいることもあるかもしれませんね。
そして他にも「オキシトシンだけが母性に関係しているのではなく、バソプレッシンも母性にも関係し、RS3の多型と母性の強さが関連し「母親の子に対する母性」が低下する、とのことですが、
これは「夫ではなく子に対して母親とは思えないような冷たい対応をとる心理」に関係がありそうです。
そしてオキシトシンは愛情ホルモンとも言われますが、単純にプラスの面だけではなく、愛着と嫌悪は表裏の心理構造性であるために、愛着・信頼・ 絆が強くなるということは、反転すれば「恨み・嫉妬・攻撃性」も強くなるわけですね。
またオキシトシンは、加齢によって作用が弱まり受容体の数も減り夫への愛情が薄れていくようにできている。熟年離婚は、オキシトシンの作用が弱まっているのも原因のひとつである可能性があります。
父性の「文化・社会・組織」: M型の直進的な競争社会 階層制 階級制 権力重視 実力行使 指揮統制 トップダウン
父性的愛情(パターナル・ アフェクション) 「認知的共感性」が優位 左脳的 知性優位 能動的 目的志向性
合理的 概念的 具体的 明確さ・厳格さ
心理学的に見た場合、父性原理とは「切断し分割する機能」と言われていますが、
例えば「美醜、善悪、優劣」など、そして社会性・適応性のための規律・鍛錬過程の厳しさは、見極めて非があればシッカリと断じるという要素が必要で、包むような「そのままでいいよ」的な働きかけとは質が異なります。
「バゾプレッシンはオキシトシンの中枢神経系への効果を打ち消すように作用する」というのは、「母性原理を抑え父性原理を発動させる」という生物学的な役割上の働きと考えれば自然に理解できるでしょう。
例えば先に紹介した石浦章一氏によれば、「女性は科学技術を嫌う」という先天的な傾向性もわかってきている、とのことですが、これはもちろん個人差はあるでしょうし、逆の場合もあるでしょう。
また社会的・文化的な心理作用が「特性」を強化している、という後天的な力学の影響もあるでしょうから、絶対にこうだとは言えません。
そして「科学的な明確な定義や分析」は父性原理的であり、「子供を能力や個性に応じて分類し、適正を高めようと具体的に働きかける」ような作用も父性原理的なんですね。
「現実の問題点を明確化し判断力を養い、自立性を促し個性や主体性を確立させる」という「現実的で能動的な作用」で、「責任感をもって指導する態度」です。
前回テーマの補足として、モノクロニック・ポリクロニックの概念で見た場合の関連性は、(モノクロニック=M ポリクロニック=P)
○ M的心理:自分自身に対する厳しさ、賢さ、几帳面、論理的、客観的 ○ P的心理:人に対する優しさ、思いやり、いい加減、感情的、主観的 M的心理 ≒「父性原理」的 、P的心理≒「母性原理」的
過去記事 ⇒ 現代日本の文化的時間と仕事・自我の関係 /時間・空間とのズレ
それに対して母性原理では全て平等的であり、フロム的に言うなら「全てを包む無条件の愛」で、「寛容性・やさしさ・包容・保護・一体性」という質で、母の子に対する姿勢で、
母性原理は「分離的な闘争原理の緊張を調和し統合する作用」を持ち、「癒し励まし支える態度」です。
母性的愛情(マターナル・アフェクション)
「情動的共感性」が優位 右脳的 感性優位 受動的で調和的 原因志向性 協調的 抽象的 寛容 平等で対等 P系の心性
母性文化 生命重視 循環型 連帯 対話 ボトムアップ 自発性重視 民主主義 相対主義
「交換神経」- 興奮・闘争性、「副交感神経的」- リラックス、沈静的、のように、どちらも必要で作用が異なるもの、と言えるでしょう。
なので父性原理のみでも不十分で、「情動的共感性」や「あるがままの受容」が心の土台・基層にあって、それは健全に調和的に作用し「豊かな自己実現」へと繋がるからです。
そして母性原理が機能せずに父性原理のみが肥大化すると、「絶対主義的」・「極端な強引さ・強硬さ」、「対立的・排他的・支配抑圧的な能動的作用」になる可能性もあります。
「母性のホルモンと父性のホルモン(オキシトシンとバゾプレッシン)」 より引用抜粋
バソプレシン受容体遺伝子に変化があると、暴君を作り出すことになる。バソプレシン受容体(VBR、AVBR)には3つのタイプが同定されているのだが(V1、V2、V3)、V1はさらに2つのサブタイプに分かれる(V1aR、V1bR。または、AV1aR、AV1bR)。
これらのバゾプレッシン受容体の中でも、V1aR遺伝子が「無慈悲遺伝子」として注目されている。V1aR遺伝子のプロモーター領域の1つであるRS3には、短いタイプと長いタイプがあるのだが、
短いタイプのRS3を持つ男性では「独裁者ゲーム」における振る舞いが、相手の取り分など配慮せずに情け容赦なく自己の利益ばかりを優先する傾向が強かったことが示されている。
そのため、短いタイプのRS3を有するV1aR遺伝子は、「無慈悲遺伝子」や「暴君遺伝子」や「独裁者遺伝子」と呼ばれている。短いタイプのRS3では利他主義が低くなり利己的になるのである。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)
母性的愛情(包む愛)と父性的愛情(鍛える愛)
母性原理は必要なものですが、ここに父性原理が働かない場合、例えば「過保護で自他未分離の未熟さのまま親離れできない子の姿」のように、自立性を失い個性や主体性を確立できず社会的な自己実現に向かえない、ということにもなるわけです。
このブログはネガティブアプローチ、ポジティブアプローチ、自己実現、気づきの方向性など、質的に対照的な、あるいは質的に異なる複数の多元的アプローチで書いていますが、
母性原理優位なアプローチと父性原理優位なアプローチ、あるいはその両方を含めたアプローチも含まれています。
それは人によって「一方が不足している」、「どちらも不足している」、「どちらかが過剰過ぎる」などの後天的な質的差異があるからです。
そして母性的愛情(包む愛)と父性的愛情(鍛える愛)の両方があって、ヒトは「あるがままとあるべきものを統合した調和的な存在」として自立できるんですね。
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