情報処理・認知処理の多元性と認知特性のタイプ

 

心の哲学を専門とする哲学者ジョン・サールは、「心的なものは物理的なものに因果的には還元可能で,存在論的には還元不可能」とします。

 

意識現象は神経生物学的プロセスに起因しており、その因果的な生成過程は神経生物学的・機能的記述によって説明可能である。しかしながら、その記述はあくまで物理的な因果機構に限ったものであり、経験的な主観性そのものを完全に捉えるものではない。

外部の観察者は、ある主体の脳活動や行動パターンという物理的側面を分析・記述できるが、その主体が内的に体験する第一人称的な意識全体――つまり『クオリア』や『わたしとしての体験』――は、主体自身のみが完全に体験し得るものであり、客観的な分析だけではその全体性を捉えることは不可能である。

 

では「わたしの主観・あなたの主観」を構成する因子の一つである「思考パターン・考え方のクセ」は超えられるのでしょうか?また「認知的に成長する」とはどういうことでしょうか?

その辺りのことを作業療法士の菅原洋平 氏がとてもわかりやすく優しい解説をしている記事があるので紹介しておきますね。

 

「脳の仕組みを知ればもっと上手くいく! クセ活用術」より引用抜粋

人間の脳は、いつも通りのパターンを崩されたときに、大きく成長します。脳は、エネルギーを貯蓄できない構造なので、常に消費し続けます。

膨大なエネルギーを消費するので、省エネで働けるように、一度通った神経の道をパターン化して、いつも同じ道を通るようにしています。

他人にペースを乱されると、このパターンが崩されるので、「どうしよう!」とバタバタと普段使わない神経を動員して、何とか解決に導こうとします。

この普段を違うパターンで働いたときに、今までと同じパターンでは解決できなかった新しいパターンが生まれるのです。

(中略)
新しいパターンを学習すると、自分には出来ないと思っていたことが、違う形でできることに気づきます。

脳の神経が遠回りをしたことで、狭くなっていた視野が広がり、自分が本当に求めることへの最短距離が見つかるのです。

脳は、新しいパターンを生み出した後、睡眠中に、生み出すまでのバタバタと無駄に使った神経を排除し、その道を主要な道路に作り変えます。

私たちは、毎日この作業を通して成長し続けているのです。自分の考えを変えられるのが苦手だったのは、大量のエネルギーを消費するからだということ。

その消費の先には、新しい自分の脳が出来上がると思うと、他人に乱されること自体も、楽しくなってきますね。

引用元⇒ 脳の仕組みを知ればもっと上手くいく! クセ活用術

 

「認知的に成長する」とは、単に知識量が増えることや情報をインプットすることではなく、自分自身の思考の枠組みや見方を柔軟に広げ、従来の固定概念を更新していくプロセスを指します。

そして「何かが出来るという能力」、「物事・情報を把握し処理する」ということの背景にはそれを支える生物学的構造性が存在し、そこには個人差があり多様性が存在します。

 

ここで「認知特性」の個性差・多元性に関するひとつの例として、医学博士(小児科専門医)の本田真美さんの『 医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン』から、ポイントの抜粋と関連記事を以下に続けて紹介しておきますね。

ところで、この手のパターン分類はざっくりした分類で、エビデンスが厳密とは言えず、かつ「個の複雑性」が抜け落ちていると考えるので、参考程度に、という感覚で紹介しています。

 

どもの頃、悩まずに絵を描き上げられた ⇒  視覚優位者   どもの頃、読書感想文を苦もなく書き上げられた 言語優位者    どもの頃、合唱やカラオケで上手にハモれた ⇒  聴覚優位者

二つの認知特性を備える人は、 一つだけの人に比べてより世界が広がります。認知特性は生まれながらの特性ですが、大人になってからでも鍛えられるものです。ただし、それには非常に高いモチベーションが要となります。

 

「あなたに最適な記憶法も分かる!? 自分の「認知特性」を調べてみよう」 より引用抜粋

認知特性は、以下6つに分類される(適性の高い職業も付記する)。

【視覚優位者】

■写真(カメラアイ)タイプ…写真のように二次元で思考する。写真を撮るように記憶するので、3歳以前の記憶があったり、アニメの脇役の顔も上手に描けたりする。写真家、画家、デザイナーなど。

■三次元映像タイプ…空間や時間軸を使って三次元で考える。映像として記憶するので、人の顔を覚えるのが得意で、マンションの間取り図だけで部屋を立体的に感じられたりする。建築家、パイロット、外科医、機械技術職、舞台制作者やテレビカメラマンなど。

【言語優位者】

■言語映像タイプ…文字や文章を映像化してから思考する。他人の何気ないひと言から鮮明なイメージを抱くこともあり、比喩表現なども得意。コピーライター、絵本作家、雑誌編集者、作詞家など。

■言語抽象タイプ…文字や文章を図式化してから思考する。初対面の人を名刺の文字で覚え、ノートをわかりやすくまとめるのが上手い。内科系医師、作家、教師、金融関係者、心理学者など。

【聴覚優位者】

■聴覚言語タイプ…文字や文章を耳から入れる音として情報処理する。難しい話題でも、一度聞くと理解でき、ダジャレや人の言葉尻を捉えるのが上手い。弁護士、教師、落語家、アナウンサー、音を意識できる作詞家など。

■聴覚&音タイプ…音色や音階といった音楽的イメージを脳に入力する。音楽を一度聞いただけでメロディを口ずさめたり、モノマネや外国語の発音も上手。ミュージシャンなど。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ http://ddnavi.com/news/238901/a/

 

認知神経科学研究では、これらの分類は固定的かつ断絶的なものではなく、個々の認知処理は状況や課題、経験に応じて動的に変化することが示唆されていることに留意する必要があります。

特定のモダリティが「優位」であるという傾向はあっても、それが固定不変であるという科学的証拠は十分とはいえず、むしろ脳内のネットワークは多重かつ相互作用的に働いています。

また、認知特性は単に生得的なものと見なされる一方で、訓練や環境的刺激によって改善や補強が可能です(=可塑性の効果)。この点で、自己の認知スタイルを理解し、それに適した学習方法や記憶法を採用することは、個々人の能力の発展に寄与する可能性はあるでしょう。

 

「言語性IQ」>「動作性IQ」= 聴覚認知優位の傾向  「動作性IQ」>「言語性IQ」= 視覚認知優位の傾向

WISC検査の言語性・動作性IQの差は、個々の情報処理の相対的強みを示す指標であり、そこから「聴覚認知優位」や「視覚認知優位」といった傾向を推測することは可能ですが、認知プロセス全体を単純に二分化できるものではありません。

 

上記引用紹介の記事でも分類されていますが、例えば『天才と発達障害』という有名な本では、映像思考(視覚優位性)の天才がガウディ相貌失認で聴覚優位性の天才がルイス・キャロルとして説明され、どちらも「自閉症スペクトラム障害」だといわれている二人です。

とはいえ、「ほとんどの自閉症者は天才ではない」のは、「殆どの健常者が天才でない」のと同様なので、まぁこういう話は「参考程度に」という感覚ですね。

IQサブテストの差異も含めた認知特性の評価は、個々の強みや学習スタイルを理解する一助となるものの、全体的な脳の連携や環境要因、経験の影響も含めた多面的な視点での評価が求められます。

 

以下、内容の補足としての追加更新ですが、

最もよく使われる知能検査「ウェクスラー式知能検査」は、WPPSI(幼児)、WISC(児童用)、WAIS(成人用)の三種類があります。基本的な知識の参考として以下の外部サイト記事を紹介しますね。

WAIS・WISCとは?ウェクスラー式知能検査の特徴、種類、受診方法、活用方法のまとめ
発達障害とIQ検査とワーキングメモリー

 

ADHD・自閉症・アスペルガーの場合の情報処理・認知処理の違い

視覚優位+同時処理が優位」⇒ ADHD・自閉症に多い傾向  聴覚優位+継次処理が優位」⇒ アスペルガーに多い傾向

ADHD、ASD、アスペルガーはいずれも非常に広いスペクトラムを持ち、個々の認知処理スタイルには大きな個人差が存在します。

また、脳科学や認知心理学の知見は、単一のモダリティ(視覚・聴覚)および処理スタイル(同時処理・継次処理)だけで各障害の特徴を断定することは難しく、複数の要因が相互に作用するダイナミックなシステムとして捉える必要があると考えられています。

 

情報処理・認知処理の入力~出力までの過程とpass理論

 

外界情報 → 注意(選択的処理) → 同時処理/継次処理 → プランニング(ワーキングメモリを含む) → 行動

PASS理論はルリアの脳機能モデル(前頭葉/後頭葉/脳幹の連携)にに基づき、PASS理論では感覚入力(五感)を前処理段階として扱い、理論の核心プロセス(注意/処理/計画)には含めません、

プランニング意・同時処理・継次処理の4つの過程」で出力(アウトプット)される。4つのプロセスは独立ではなく相互依存的に機能します。

 

〇 同時処理

頭頂葉と後頭葉のネットワークを基盤に、空間的・視覚的情報を統合的に処理します。このプロセスは、図形のパターン認識や全体的な視覚理解に寄与し、各要素を一つのまとまりとして把握する能力を支えます。

〇 継次処理

側頭葉から前頭葉へのネットワークが関与し、言語的・時間的な順序に依存する情報処理を行います。たとえば、文章の文法構造の理解や、一連の出来事を順序立てて記憶・処理する場合に、このプロセスが重要な役割を果たします 。

〇 注意

脳幹の覚醒システムと前頭葉の選択的注意機能が連携し、外部からの妨害刺激を抑制するとともに、目標に沿った情報処理を制御します。この働きにより、重要な情報に集中できる環境が保たれます 。

〇 プランニング

前頭前野を中心とした実行機能ネットワークが、問題解決戦略の生成、評価、および修正を司る高次認知プロセスを担当します。これにより、状況に応じた柔軟な行動計画が立案され、実行に移されます 。

 

PASS理論は、個別の認知処理能力を評価することで、従来のIQテストでは捉えにくかった実際の学習や問題解決のプロセスを明確化しようとする試みでもあります。

現代の認知科学におけるPASS理論の理解は、単純な直列処理モデルではなく、複雑かつ柔軟な情報処理システムとして捉えられるようになっています。

単純な直列処理モデルではなく、覚醒系、感覚統合系、前頭葉系の動的な連携を前提とした複合的な情報処理システムとして捉える点が強調されています。

 

具体的には、前頭前野(プランニング)、頭頂葉(同時処理)、側頭葉(継次処理)などの連携が、認知の柔軟性を支えているという視点が示されます.

同時処理と継次処理の能力は、個人の固定的な特性だけでなく、視覚的提示や言語的提示といった課題の文脈に応じて発現様式が変化します。また、プランニングが注意資源を配分し、使用する処理様式の調整に関与している点は、実行機能ネットワークの働きとしても理解されます。

【追加更新】参考PDFの紹介  ➡ 知能のPASS理論に基づく認知アセスメント

 

視覚優位の場合は感覚的思考(右脳系)で同時処理が優位。言語優位の場合は論理的思考(左脳系)で継時処理が優位になる傾向。  継次処理・同時処理は、K-ABC(検査)で判別可。 

ただし、実際の脳は両半球が高度に連携して働いており、認知処理は状況や課題に応じて動的に変化します。そのため、これらの説明はあくまでヒューリスティックな枠組みとして捉える必要があります。

 

M(モノクロニック)、P(ポリクロニック)

M≒「継次処理」でプランニング注意が統合的に働いている  P≒「同時処理」でプランニング注意は多元的に分散して働いている  :ブレスト≒同時処理的 ディベート≒ 継次処理

女性は「脳を全体的に使う傾向」ため同時処理が得意で、男性は「脳を部分的に集中して使う」傾向で継次処理が得意。(女性≒P的処理 男性≒M的処理) これはあくまで傾向であり、個人差があります。

 

 

脳科学ブログ(教育への架橋)では、 脳の情報処理は「代数的処理」と「幾何学的処理」とし、「聴覚」「視覚」以外に「体感覚」を加えた組み合わせとタイプをわかりやすくまとめていますので参考にどうぞ。

 

継次処理で聴覚優位 ⇒  弁護士タイプ

〃   視覚優位 ⇒  プログラマータイプ

〃  体感覚優位 ⇒  ダンサータイプ

 

同時処理で聴覚優位 ⇒  ミュージシャンタイプ

〃   視覚優位 ⇒ 建築家タイプ

〃  体感覚優位 ⇒ 料理人タイプ

参考 ⇒ 脳科学ブログ(教育への架橋)

 

このようなモデルは、特定の認知スタイルやそれに連動した専門性・創造性の可能性を理解する手がかりとして、教育現場や自己理解のツールとして利用される一方、実際の脳の情報処理の複雑性を完全に表すものではないことに留意する必要があります。

 

医師の長沼睦雄 氏の著書「活かそう!発達障害脳―「いいところを伸ばす」は治療です。」では、ADD(注意欠陥障害)・ADHD(注意欠陥・多動性障害) ・ハイパーレク(過読症)・自閉症ディスレクシアなどのタイプ特性を以下のように分類しています。

前頭葉の脳活性が継次処理(過集中)+過去志向ADDタイプ  前頭葉の脳活性が同時処理(低集中)+未来志向AD/HDタイプ   左脳の脳活性が強(論理・分析に強い)アスペルガータイプハイパーレクシアタイプ   右脳の脳活性が強(直感・想像に強い)自閉症タイプディスレクシアタイプ

これらの分類は、発達障害関連の特徴を捉えるための一つの枠組みです。個々の症例には大きな個人差があり、また最新の神経科学的研究では、脳活動の局在性や処理スタイルは柔軟かつ状況依存的に変動するため、固定的なラベルとして見るのは注意が必要です。

 

◇ 関連する外部サイト記事の紹介

ADHDの僕が、医師のつくった「頭の良さ」テストをやった結果
「同時処理型」と「継次処理型」

 

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