今日は昨日に引き続き「犯罪心理学」part2で、基本的なこのブログでの「犯罪と犯罪者」の調査・検証・分析の基本スタンスを書いていきます。
今日は社会的な現象としての犯罪と「有機的連帯」の社会の進化、そして犯罪理論と説明水準をテーマにします。
「社会的な現象としての犯罪」
昨日書いたように、デュルケムは「犯罪は健康な社会の不可欠な一部分をなしている」「社会の健全な機能にとって犯罪は有用である」とさえ述べていて、その言葉の意味を今回説明します。
デュルケムの社会解体論によると、社会規範・規則というものは、社会の構造の変動に伴って変化する相対的なものであり、そして社会構造の変化によって生じる「新しい規範」に従った行為は、それまでの「古い規範」から見れば違反とみなされるものである。
まぁ日本でも団塊の世代の価値観と若者の価値観は既に大きく乖離していますし、現在の世界の流れや社会の流れには明らかに若い人々の方が適応しつつあり「世の新しい規範」に沿っていますね。
ですが、規範の権威は明らかにマジョリティの団塊の世代とその周辺の「古い規範」の方にあり、それが余計にややこしくしているともいえます。
つまり、社会の構造が変動しているからといって、人々の集合意識が100%新しい流れに合わせて切り替わるようなスムーズな流れは不可能であり、新旧の二つの流れが絶えず混在した中で、不調和と葛藤と摩擦が生じつつ、そうやって徐々に時代は切り替わっていくわけです。
やがて今の若者がマジョリティになり、そしてそれもまた「古い規範」として「新しい規範」に移行していくでしょう。
社会解体論での「犯罪」は、社会の構造が変動することに伴って必然的に生じる不可避の現象であるということになりますが、まぁ犯罪にも色々あるので、それはあくまでも「社会的な現象としての犯罪」に限定しておきますね。
「社会的な現象としての犯罪」は、例えばカルトやイデオロギーによる犯罪などは特にわかりやすい例ですが、そういう特殊なものだけではありません。多くの犯罪はその背景に「社会的要因」を持っています。
ですが反対に、より個人的な気質的・遺伝的な異常性による特殊犯罪のようなものは、社会の構造の変動や「社会的要因」が優位ではなく、生物学的な要素が主因で、それとの相互作用です。
そしてデュルケムによれば、変動のない社会は存在せず、あったとしてもそれは発展のない停滞した社会であり、病的な社会であるわけです。それゆえに「犯罪は健全な社会の本質の一部である」と彼は言うのです。
そして、社会のマジョリティが「古い道徳観」を支持していても、変化しつつある社会・時代の流れに沿うマイノリティたちにとってはもう「古い道徳観」に対する支持は失われつつあり、それを守る意識も弱くなっています。
これがデュルケムの語る「犯罪」と呼ばれる逸脱行為ことですね。そしてこうした「逸脱」に対する社会的な取り組みが生じ、それによって社会の「集合意識」に変化が生じ、それが新しい集合意識となって統合され、社会は具体的な新しい規範や制度を発展させていくわけです。
そのため「社会的逸脱行為」である犯罪は、社会変動の結果であるのと同時に、社会構造の進化や改善を促すための原因・キッカケにもなり、その社会の集合意識を更新する原因・キッカケにもなりうるわけです。
だからデュルケムは「社会の健全な機能にとって犯罪は有用である」というわけですね。つまり犯罪という社会システムから生まれたバグでありノイズであるが、それを生み出す要因を解決することで、社会を新しく更新するという意味では、犯罪というバグ・ノイズは「システムの問題点を焦点化し顕在化させる役割」を果たしているともいえる。
それは身体に局所化した病のようにネガティブな形式を伴ってはいますが、もしそれが初期症状として具体的に現れず、認知されないまま進行してしまえば、病はもっと深刻になっていたわけで、「病状」を具体的に認知し表すためには必要なサインなんだともいえるでしょう。
病気は心身の機能の異常を私たちに教え、心身の機能の治療は身体を再び元気にするように。
「有機的連帯」の社会の進化
デュルケムは、産業革命によってそれ以前の「伝統的共同体システム」が衰退し、資本主義社会へと移行する過程で、社会分業の構造は機械的連帯から有機的連帯へと変化したと分析し、
資本主義社会では産業構造の変化に伴って分業は様々な職業組織を形成し、それぞれが専門的に特殊化されつつ発達し、そしてそれぞれの働きが相互に連帯する社会システムが構築されます。この社会システムでの人間の関係性をデュルケムは「有機的連帯」と定義しました。
「有機的連帯」が発達した現代資本主義社会では「伝統的共同体システム」のような「集合的権威」という絶対軸を持っていない。「伝統的共同体システム」の場合では「集合的権威」に人々が従順であることで絶対軸をブラさないようにしていれば、規範逸脱は最小限に抑えられる社会です。
ですが「有機的連帯」では、人々が互いに相手の異質性・個人性を尊重することによって成立する社会であり、資本主義社会では異質な様々な集団がそれぞれに相対的な軸を持ち、その相対的な軸を取りまとめ調和・秩序化させるための共通の規則・基準が試行錯誤されながら確立されいくのですが、
現代資本主義社会は非常に動的で複雑な「有機的連帯」の社会であり、次々と生まれる新しい大小の集団の相対的な軸に対応しながら、
それを取りまとめ調和・秩序化させる新しい共通の規則の基準が再調整されながら、再構築され統合される過程を繰り返していき、止まることなく進化・変化していくのですね。
参考用として、デュルケムの社会学をシンプルにまとめている以下の外部サイトを紹介しますね。
私は「デュルケム」は参考にすべきところも多いことは認めつつも、ユング同様にその理論が全てにおいて完璧だとは全く考えておらず、他の様々な犯罪理論もこれから書いていきます。
あくまでも「デュルケム」は犯罪社会学の祖として、デュルケムの理論を基軸としてその後の犯罪心理学の発展があるとも言えるので、ベースとしてまず初めに紹介したんですね。
当ブログは、様々な犯罪・犯罪者をテーマにした記事を幾つか取り上げたり書いたりしていますし、これからもっと広げて詳細に扱っていく予定です。
それらのブログ記事がどの「説明水準」をメインにしたものなのか?どの「犯罪理論」を軸にしているのか?ということをここで整理しておきます。
もちろん私の記事は完全に特定の犯罪理論に忠実に書くだけのスタンスというわけではなく、その他の心理学やジャンルの考察とも合わせて解釈したりもするので、もっと複合的な解釈の場合もありますが、大方の目安にはなると思います。
犯罪理論と説明水準
「犯罪現象」は多角的な角度から調査・分析・検証が行われていますが、それらの多様な調査・分析・検証のアプローチ・理論を分類整理するのに参考になる構図として、マクガイアによる「説明水準」の枠による分類があります。
※ 以下『 マクガイアによる「説明水準」の枠による分類 』は大渕憲一氏の著書「犯罪心理学 培風館」より参考及び引用抜粋。
大渕憲一:社会心理学者。東北大学大学院文学研究科教授。専門分野は人間の攻撃性、葛藤解決、紛争解決、社会的公正、犯罪心理学である。近年は公共事業政策に関する研究など、社会的還元性を強く意識した研究を行っている。
◆ 説明水準と焦点 (分析単位) | ◆ 目的 | ◆ 代表的理論 |
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1.マクロ社会 | ● 犯罪を社会現象と して分析 | ・社会解体論 ・文化葛藤理論 ・緊張理論 ・フェミニズム犯罪理論 ・抑制理論 |
2.地域・コミュニティー | ● 犯罪における地域差 を分析 | ・社会解体論(シカゴ学派) ・環境犯罪学 ・分化的機会構造理論 |
3.社会・家族・学校・仲間集団 | ● 社会化の役割、家族・学校・仲間集団など による影響を分析 | ・下位文化理論 ・分化接触理論 ・社会的絆論 |
4.犯罪行為・事件 | ● 犯罪事件のパターンとタイプ、 犯罪被害者とその行動傾向などを分析 | ・日常活動理論 ・合理的選択理論 |
5.犯罪者個人 | ● 犯罪者の行動パターンと心理的要因 (思考、感情、態度など)を分析 | ・発達的パーソナリティ要因 (遺伝、気質、家族など)研究 ・個人差研究(知能、パーソナ リティなど) ・心理学的統制理論(道徳性、 自己統制など) ・社会学習理論 |
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