犯罪心理学  犯罪・非行の構造と理論

 

 

犯罪心理学part3です。 今回も前回に引き続き「犯罪理論」を分類整理しつつ説明しています。今日は「犯罪・非行の構造」を犯罪理論と犯罪心理学での構造分析を行います。

前回の記事の後半では、犯罪を分析する際の説明水準と焦点  (分析単位)と目的、そしてそれに該当する犯罪理論の代表的理論をまとめましたが、

前回の記事 ⇒ 「社会的な現象としての犯罪」と「有機的連帯」の社会の進化

今日は「犯罪行為・事件・犯罪者個人」を見るのではなく、説明水準としてはマクロ社会、地域・コミュニティー、仲間集団などの「犯罪の社会要因」を、それに該当する犯罪理論の相関関係をまとめながら説明しつつ見ていきます。

犯罪の社会的要因を研究する理論には大きく分けて以下の3つがあります。

統制理論    ● 緊張理論   ● 下位文化理論   

「統制理論」というのは「性悪説」として人間を見る。つまり人は動物と変わらず本来利己的で自己中な生き物なので、社会規範や規制で抑え付けていないと悪いことを始める。

つまり社会的統制要因が弱体化することで犯罪が増えると考えるため、抑圧原理を徹底することで犯罪を抑止するしかないという考え方です。

「緊張理論」というのは「性善説」として人間を見る。人は本来、他の人々と出来るだけ調和的に生きたいと思っているが、様々なストレスが加わることにより心理的余裕を失い、また判断を見失い犯罪に手を染めることもある、という考え方。

「下位文化理論」というのは、「人は先天的に性悪・性善は決まっていない」「人は生後の環境要因によって悪くもなれば良くもなる」というスタンスであり、「環境要因」とは「家族・仲間・地域などの文化」であり、その係の影響の善し悪しで決まるという考え方です。

今回の「犯罪・非行の構造とカルト・自殺との関係性」のテーマで使用する上記3つの理論は、それを基軸として幾つかの派生理論があり、それらをまとめると、

社会解体論 (シカゴ学派)・文化葛藤理論 ・アノミー理論 ・相対的剥奪理論・分化的接触理論・分化的機会構造理論 、そしてコーエンによる「緊張理論と下位文化理論の統合理論」である「非行下位文化理論」です。

ちなみに、これらの3つ理論とその派生理論は、どれかが正しくどれかかが間違っている、というような「対立的理論」であるような見方を私はしていません。どれか一つの理論だけでは説明しきれない「犯罪という現象」を、多角的な視野でそれぞれに検証した結果であり、

それぞれの理論は犯罪のケースバイケースでは正しくても「犯罪全体を説明するもの」としては全く不十分であり、よって全ての理論を総合的に組み合わせて様々な犯罪を分析することで「犯罪・非行の構造とカルト・自殺との関係性」の大まかな全体像が見えてくるという感じですね。

大まかな全体像を把握した後に、それぞれの犯罪をひとつひとつ絞って詳細にみていくわけですが今回はそれはやりません、あくまでも全体像のみです。

また、犯罪が起こるメカニズムは自殺が起こるメカニズム、うつや心・精神の病、そしてカルトや「過激な思想集団・新興宗教」が生じるメカニズムとも関連性があります。

 

犯罪理論の補足説明

「緊張理論」は基本的な理論提起はデュルケムによってなされ、その後「シカゴ学派」ショウマッケイの実証的検討によって、「社会解体」が地域によって相対的なものであることが具体的に確認されます。

それは繁華街周辺のような人の流動性が高い場所、多種多様な価値観を持つ人間、人種が混在するような場所では、統制や調和が乱れカオス化が起きやすいために、

他の地域よりもより顕著な「社会解体化現象」がその地域で起こることによって犯罪が相対的に多くなる、という考察であり、「シカゴ学派」のショウッケイの実証的検討は、人々の「移動」に着目した社会解体論です。

セリンの「文化葛藤理論」の場合は、地域や移動による「社会解体化現象」ではなく、「文化的摩擦」による文化葛藤という側面から、犯罪を生み出す原動力を考察します。

例えばマジョリティ側の「文化・価値」はマイノリティの「文化・価値」に対してより支配的であり、マイノリティの違反へのマジョリティの抵抗力の強さが制裁の厳しさに正比例する、ということです。

例:既得権益を保護するために新規参入を規制する法律。そして違反に対す制裁の厳しさは既得権益側の利益侵害と価値侵害の大きさに正比例する。

世界のマクロなレベルでの例では、「欧米キリスト教文化 VS 中東イスラム教文化」の文化的葛藤と価値基準の不公平さと保護・制裁のアンバランスさをみれば、それは一目瞭然でしょう。

つまりセリンは、マジョリティ側にのみ一方的に都合が良い法と、利益と価値の保護のための過剰な制裁への「挑戦でありアンチテーゼ」として犯罪が生まれる、と分析するわけですね。

セリンの「文化葛藤理論」は「有機的連帯」の資本主義社会において非常に重要なポイントになっています。

なお次回は、セリンと、マートンのアノミー理論とコーエンによる「緊張理論と下位文化理論の統合理論」を主軸にして、「カルト」と「犯罪」を見ていきますので、セリン以下の他の理論の詳細はまた次回に書きます。

統制理論のパラドックス

「統制理論」に関してもまた次回以降に詳細を書きますが、これは規律道徳主義などと同様に私は否定的なんですね、まぁ民族の気質や国の教育レベルや治安や秩序の安定の状態にもよりますが、

日本の場合では規範や規律、抑圧原理の強化はもう無意味でしょう。万人に均一化した細か過ぎる規律意識と同調圧力がエスカレートし過ぎ、

それが過剰なクレーム意識足の引っ張り合い出る杭叩きになって、「みながみなで互いの首を絞め合うような非生産的な抑圧構造」が形成されているからです。

そもそも他の民族に比べて日本人は元々気質的に内向的で真面目であり、それをさらに細かくキッチリ抑え付け過ぎたことによる弊害の方が今は遥かに大きい問題になってきていると思います。

例えば世界的に高い自殺率、ますます増える「うつ」若者の無気力さ新しものを生み出す創造性の低さ、これらの問題は全て本質的に繋がっているともいえます。

規範主義と道徳教育と同調圧力による抑圧過多な働きかけによって、自我が一方的に抑え込まれて、どんどん縮小してるわけです。

自我が縮小して気持ちはどんどん萎縮化・無気力化しているのに、「高い目標」に意識し努力させ求められる「理想の姿」は一ミリもズレてはならず、「万人が一様に納得する言動」でなければならない、という過剰な規範主義と同調圧力で締め付けるわけです。

元気で精力的でなければいけないが、同時に冷静沈着で絶対にミスはしてはなない。果敢にチャレンジするべきだが、失敗は完全自己責任であり、一回の失敗で人生終わると心得よ。

まぁこんな風にとにかく「みながこうあるべき」という圧力と印象操作、そして矛盾した二重基準が多すぎますね。

何故、日本は幸福度が低く自殺率が高く、結婚願望も低く、子供を生み育てたいという人もどんどん減っているのか? それは単に景気、お金の問題だけではありません。

弱者と高齢者は「使えない消耗品」と同じであり、まだ動く状態にある性能がい者だけを生かし、それを使えなくなるまで使い切りながら社会を回していけばれそれでよし、という馬車馬的な仕事観しかない貧しい発想力であり、

でありながらそんな馬車馬的な仕事でさえ、それなくなれば、残るものは何もないような空しい価値観と空しい人と人の繋がりの社会であり、何の創造性ない事務的な惰性と、根拠なき盲目的な義務感だけでシステムを回しているだけであり、

そしてそうやって何も疑問を抱かず本質的な改善をすることもなくそれを続けきた結果、様々な能力や活力が単に抑圧的に用いられるだけの不毛な労働社を形成し、

「システムが人間を支える社会」ではなく「人間がシステムに奴隷のように仕える閉塞した社会」になっていったというわけです。「システムを回すための消耗品型人生」への過剰適応の結果が、日本社会の不毛さ、ということですね。

そして昨日デュルケムの「犯罪は健康な社会にとって有用である」という言葉の意味を説明しましたが、犯罪はネガティブで否定的なバグでありノイズではありますが、それは「社会を更新させるキッカケ」にもなるということです。

ですが日本は社会の「病状」を教える役目としての「逸脱行為」を封じ込め、「バグもノイズ」も潜在段階で潰すように「同調圧力」と「自己責任」で抑え込み、何にも現象化させずに、最後は「うつ」と「自殺」に追い込み、完全に蓋をして「バグもノイズ」も処理するわけです。

このやり方は今の歪んだ道徳教育と同じで、「活力を抑え込まれた良い子」だけを量産し、それでは社会は元気にならず、個の潜在能力も開花しません。それでは社会の病状は悪くなる一方ですね。

これは「犯罪をしろ」といっているのではなく、

「バグやノイズ」は問題点がるから起きているのであり、「バグやノイズ」だけを一方的に叩いても本質的な解決にはならないことを理解し、それを生み出している社会の構造を改善し更新することも大事だ、ということを言ってるわけですね。

そして本質的な問題である「社会の構造・在り方」を改善も更新もしないで、表面に現れたバグやノイズだけを叩いて抑圧することばかりしているから、

「自殺者」も「うつ」も「カルト」も「無気力な若者」も「将来に何の希望無い大人」も湧くように次々と出てくるんですよ、と言っているんですね。

 

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