タフツ医療センター精神医学教室教授のナシア・ガミーさんの著作「気分 障害ハンドブック」を参考に幾つかを以下にピックアップ紹介。
『うつ状態なら全て抗うつ薬が効くわけではない。』『抗うつ薬と呼んでいるそれを正確に言い直すなら「原発性単極性うつ病治療薬」であって、 続発性うつ病や双極性うつ病、それ以外のうつ状態への効果が約束されているわけではない。』
『「うつ状態」が生じる精神科の病気は「うつ病」ばかりではない。うつ病も双極性障害(躁うつ病)もパニック障害も外傷後ストレス障害(PTSD)も統合失調症もそうだ。』
全般性不安障害と気分変調症はしばしば併存し、それは古典的概念の「抑うつ神経症」と言える。この抑うつ神経症に対する抗うつ薬治療のエビデンスは乏しく、抗うつ薬の効果は、治療しないのと同程度とする報告がある。
※ 続発性うつ病というのは二次性うつ病のことで、他の病気・障害が先にあって続発・併発するうつ病のことです。
◇ 関連外部サイト記事(2018/3 追加更新)
国内外で使われている様々な抗うつ剤の効果を比較した日英などの国際チームの研究で、抗うつ剤の効果を比較すると最大2倍の開きがあることが分かった、とのことです。
以下、朝日新聞デジタルより引用・抜粋
抗うつ剤の効果と飲みやすさの順位■
①ボルチオキセチン① *日本は臨床試験中
②エスシタロプラム(レクサプロ)③
③ブプロピオン⑨
④ミルタザピン(リフレックス、レメロン)⑧
⑤アミトリプチリン(トリプタノール)⑬
⑥アゴメラチン②
⑦パロキセチン(パキシル)⑦
⑧ベンラファキシン(イフェクサー)⑪
⑨デュロキセチン(サインバルタ)⑯
⑩ミルナシプラン(トレドミン)⑩
⑪セルトラリン(ジェイゾロフト)⑤
⑫ネファゾドン⑫
⑬シタロプラム④
⑭クロミプラミン(アナフラニール)⑰
⑮フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)⑭
⑯フルオキセチン⑥
⑰トラゾドン(レスリン、デジレル)⑮
⑱レボキセチン⑱※効果などに差が出た18種類。()内は商品名。後ろの数字は飲み続けやすさの順位。京大などの国際チームによる。
うつ病は病気の始まりがわかりずらく、「何となく調子がいつもと違う」と感じ始め、人それぞれ様々な症状が起こってきますが、徐々に時間をかけて進行してきます。
私の場合もいきなりハッキリした重いうつになったのではなく、本当は注意深く観察していると、「何かおかしい」という点がところどころに現れてきているのですが、
人間誰しも完全に一定の精神状態の人なんていないので、「よくあること」として処理されやすいのです。 精神の波は誰でも上下にブレたり、たまに荒れたり、気づけば静まったりしていますが、
健康な人の場合それは心身の調節機能により自然にバランス回復しています。ところがうつの場合は、下がった波が再び自然に元の高さに戻っていくことはなく、異常に下がったままだったり、逆に異常に上がったままだったり、
心身の調節機能が上手く働かないのです。 それによってバランス回復が出来なくなっているんですね。心身の調節機能にトラブルが生じているのです、
それなのに「自分は当たり前のことも出来ない駄目な人間なんだ」と責め続けたりするんですね。
例えばインフルエンザで酷い熱が出て意識朦朧で体もぐったりの時に、元気な人と同じように走れるでしょうか? また走れない事をあなたや周りは責めるでしょうか?
ですがうつであるなら心の問題として「精神論」ばかりで解決しようとしていませんか?
心身のエンジンは故障気味で馬力も全然出ません。 そこにガソリンをいくら入れても思うようなスピード・パワーで走れません。 どんどん周りの車に抜かれ、「チンタラ走ってんじゃねぇ~」と怒鳴られたりして、どんどん自分に自信がなくなっていくんですね。
ですが、それはドライバーの精神力の問題ではなく、車の故障を治せばいいんですよ。いくらドライバーが頑張ってってもエンジンが壊れていちゃ走れないんですからね。
うつ病は治療しない場合でも自然に治るケースもあります。例えば私は医者に相談もせず病院にもいっていませんが、自力で安定化させてきました。
そして母の場合は医師と薬、そして私の経験を生かしてトータルな治療&周囲の支えで治していきました。
自力の安定化と医師による薬を使った治療のどちらが良かったのか?は、簡単には言えません。 母のようなケースそしてタイプの場合、全てを自力のみでやるとかえってヤバいケースもあり、
そして「私の場合」とはいっても「あの当時のうつの治療レベル」と「医師の理解力のレベルの差異」という医療的なものに対しての不信感と、「鬱への無理解・否定的目線」の「社会的状況」など時代的な背景を含めた総合的な意味なので、単一の意味ではありません。
「正確に診断できるか、適切な対処ができるか」どうかは、医師次第・病院次第。
そして「周囲の無理解」+「社会的な信頼や評価の低下」、そんなマイナスな方向へ向かう可能性が高い状況下では、仮に選んだ相手を間違えば逆にさらに悪化したか、最悪自殺したかもしれません。ですが今の精神医学の状態あればあの頃よりは信頼できる、と感じます。
そして昔は私のようなタイプはかなり多かったのではないか?と推測されますね。その中にはたまたま安定化した人もいればそうならなかった人もいるでしょうが、データが存在しない以上正確な統計はとれないでしょう。
まぁ今でもおそらく一定数はいるのでしょうが、基本的に今は社会的に精神科受診に対する敷居が低くなっているし、世間も精神論・根性論ばかり言わなくなってきたので、迷わず病院を勧めるのが安全でしょうね。
とはいえ、精神医療における疾患の定義や薬というのはまだ内科や外科のような身体医学と比較して科学的・技術的に明確に確立したものといえるものではありませんので、(内科や外科が完全というわけはありませんが)
病院や医師によって認識・理解・能力の差があり、過剰に不安視することも行き過ぎですが、逆にメンタルヘルス系の病院や医師を過剰に盲信もせず、過剰に依存せずに見極めるよう心がけてくださいね。
ナシア・ガミー「気分障害ハンドブック」よりピックアップ
『 難治性うつ病の原因として最も多いのは双極性障害の見逃し(双極II型障害が特に多い)』
『双極性障害を治療する際、気分安定薬剤の単剤で効果が十分に得られるのはせいぜい3分の1。』、『 難治性うつ病の約半分はこの見逃しによるもの』
『難治性には、薬物が効かない「治療抵抗性」と、副作用が出現しやすく十分に薬が使えない「治療不耐性」がある。』
抗うつ薬が初期に効果をもたらしても、しばらく経つと薬剤への反応性が落ち、耐性がつくことがある。この耐性は、単極性うつ病では20%、双極性障害では60%に生じるという報告がある。
※ 抗精神病薬や抗うつ薬の副作用の症状としてアカシジア(静座不能症)というものがあります。参考PDFを以下に紹介しておきますね。⇒ アカシジア
この記事だけでなく、以下のリンク先の記事も参考にしてください。
鬱(うつ)病 – 薬 『抗うつ薬の効果』
抗うつ薬の効果が出てくるのは約2、3週間後くらいからで、薬が効く人は患者さん全体の約70%程度とかいわれていたりもしますが、ナシア・ガミー「気分障害ハンドブック」によれば、以下にように指摘されています。
『うつ病のうち、最初の抗うつ薬に一時的にでも反応するのは約半数』、『完全に寛解するのは3分の1程度。』『複数の抗うつ薬を試み、一時的にでも寛解が得られるのは半分程度』
『精神科医にとり、うつ病を抗うつ薬で治療するまでは簡単だが、大切なのはそれが効かなかった時の治療法を持っている事だ。』
ナシア・ガミー「気分障害ハンドブック」の翻訳者で精神科医の松崎 朝樹氏のYouTube講義を紹介
そして抗うつ薬には副作用があり、それは抗うつ薬の効果よりも早く出てくる場合が多く、母の場合も様々な副作用が薬を飲むたびに出てきました。効果は確かにありましたが、問題もなかったわけではありません。
「副作用」に関する内容に関して、再び精神科医の松崎 朝樹 氏のYouTube講義を紹介します。専門的な内容ですがコンパクトにわかりやすく要点をまとめられていますので、一般の方でもわかりやすい内容です。
〇 抗うつ薬でワルファリンが強まる?
〇 抗うつ薬で低Na血症?
〇 炭酸リチウムの副作用は?
うつ病の治療から回復までの大まかに流れをまとめると、回復期 ⇒寛解⇒維持期という順番を辿りますが、
回復期は非常にゆっくりしているのが特徴で、なんだか良くなったり悪くなったり、進歩があまり感じられないようにも思えてきます。ですがそれが回復期なのです。
ここで周囲が急かすのはよくありません。 また本人にも焦りや強い自己嫌悪が出やすい時期であり、注意が必要です。この時期の治療を急性期治療といいます。
回復期が徐々に進展して抑うつ状態がなくなってきた状態の事を寛解といいます。ですが寛解後すぐに「再燃」という症状のぶり返し現象が起こる事もよくあり、
あるいはしばらくは寛解の状態が続いてもまた症状が「再発」することもあります。ですので、寛解後の維持期においても引き続き再発防止の治療が必要です。この時期の治療を維持治療といいます。
この急性期治療と維持治療で治していくのが精神科の基本的な治療の流れです。そして母の場合は、絵に描いたようにこの流れのまんまの症状が起き、治療もこのように進められて非常にゆっくりと酷い症状からの回復へと向かって行きました。
抗うつ剤が効かない ・ 長期に治らないうつ
薬が効く人は患者さん全体の約50%程度といわれているように、全ての人に薬が効くとは断定できません。薬の効果・副作用には個人差があります。
その原因の一つとなる、「P糖蛋白の機能の個人差と薬の特性」に関するシンプルな図を以下に張っています。(※ 図は精神科医の松崎朝樹 氏によるものです。)
脳に届いた薬も、P糖蛋白というトランスポーターによって脳から排出される。P糖蛋白の機能の個人差により薬が効きやすかったり効きづらかったりし、薬の特性によりP糖蛋白の影響を受けやすかったり受けづらかったり。抗うつ薬ひとつとっても効果に個人差や薬の差があるのもP糖蛋白が一因。 pic.twitter.com/GE7Eu9wJpn
— 精神科医 ぷしこノート (@Psycho_Note) 2017年2月4日
そして先にも書いてはいますが、鬱の種類によってもどの薬が効くかは異なり、それ以外にも、「鬱とよく似た症状が起きているが全く別の他の病気」であったりする場合もあり、当然その場合は薬は効きません。
以下「追加更新」で、新たな研究報告を紹介しています。
ソーク大学のゲージ氏らは、メイヨー・クリニックの共同研究者らとともに、MDD患者803人を対象にSSRIに対する反応範囲を研究。この研究は、「SSRIに反応しないうつ病患者の細胞を直接検査した初めての研究」とのこと。
『ニューロンが憂鬱になるとき:抗うつ薬が効かない場合、脳細胞の活動亢進が原因である可能性がある』より引用・抜粋
最も一般的に処方される抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、多くの人々のうつ病の霧を晴れにしてくれる。 しかし、大うつ病性障害患者の約 XNUMX 分の XNUMX にとって、SSRI は大きな違いをもたらしません。
今回、ソーク研究所の研究者らは、薬物の存在下でこれらの患者の少なくとも一部の脳のニューロンが過剰に活動する可能性がある理由を突き止めた。 この研究は、 分子精神 1月30、2019に。
(中略)
新しい論文で使用された方法は、うつ病患者の他のサブセットにもより広く適用できると研究者らは述べている。「これにより、治療にどのように反応するかという点で極端な例に該当する人々に関するさらに多くの研究への扉が開かれることを願っています」とヴァドダリア氏は言う。 「ひいては、それはより広範な人口における大うつ病を理解するのに役立つでしょう。」
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